本の記録
読書感想文。
admin


http://jugem.jp/
http://biancca.net/
オリンピックの身代金
08月 27日 * 22:36 * 奥田 英朗 *
-- -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- --
奥田英朗の小説は、地味にやられる。
描いてあることのリアルさにやられる。

というわけで、あまり元気のないときには読めない小説です。

舞台はタイトルのとおり、東京オリンピックに向けて日本中が大騒ぎしていた昭和39年。
戦争やら学生運動やら、そういうものがまだまだ記憶に新しい時代の日本。
オリンピックにそんなにアツい思いを向ける気持ちが私などにはまったくわからないのですが、
この小説を読むと、当時の人たちのオリンピックにかける思いがよくわかる。

焼け野原だった東京が、こんなにも立派になったんだ……。
と、世界に向けて精一杯声を張り上げたかったんだろうなあ。と。

開会式に爆弾を仕掛ける。やめさせたいなら金をよこせ。

お話としては、そのまま、オリンピックを人質に身代金を要求するというお話。
オリンピックは東京の豊かさの象徴として登場します。
高度成長期に浮かれて前向きな(東京の)人たちの豊かさの象徴。未来の象徴。
日本の未来は明るいぞ、という気持ちの象徴。
しかし、実際にオリンピックの会場を作っているのは東北から出稼ぎに来ている人夫だったりするのです。
中間業者がよくわからないくらいに入り混じり、孫受けの孫請けみたいな状態で働いている出稼ぎ人夫たち。
彼らの生まれも育ちも、それから田舎においてきている家族や親族の暮らしも豊かとは程遠い。
生まれながらにして希望も夢も何もない。
そこの部分の格差が非常によく描かれています。

もう、息苦しい。すごく息苦しい。

優しさと真面目な性格でもって、ちょっととんでもないことをしでかしてしまった東大生。
その行動のもとにある気持ちや思いはすごく理解できる。
しかし一方で、そのせいで自分の様々なものを投げ打って、命をかけて国のために、ひいては自分たちのために必死になった人たちもいる。
警察官だって、地道にお給料をやりくりして小さな幸せを守る人たちなのである。
とても恵まれた環境で、何不自由なく育った人たちだって、自らの幸せのために一生懸命なのである。
境遇にこそ差はあれ、自分の幸せを守る意味において、誰もみんな同じである。

ただ、生まれる場所や境遇によって、人生が天と地ほど変わってしまう不条理だけが物語の真ん中に鎮座していて、その存在感だけが非常に私を圧倒して、疲れさせたのでした。

今はこの小説の時代ほどわかりやすい不平等さは見えないけれど、見えないだけで確実に今だってあるものだと私は思います。しかしそれに嘆いていてもどうしようもないわけで。
そして私は、東京生まれの東京育ちなのだよなあ。。。と、なんとなくやりきれない思いを持て余してしまいました。しかしできる事はなにもないのだ。自分の生活でいっぱいいっぱいなのは、程度の差こそあれ変わらないのだ。
……まあ、今の私の暮らしは、おそらく底辺に近いところにあると思うのですけれどね。

面白いし良い小説です。

元気な時に読むことをお勧めしたいです。


JUGEMテーマ:読書


-
new | top | old